現代のナショナリズムを考える
─ 国はなくとも人は生きる ─
呼びかけ
「美しい国日本!」「侵略ではなかった」「慰安婦は強制ではなく、必要から生まれた」「固有の領土を守れ」「朝鮮学校への補助金をやめろ」……。巷に「愛国者」が増えました。大久保のコリアタウンに「朝鮮人を殺せ!」のシュプレヒコールが響いています。東日本大震災、そして原発事故以来、強い日本、強い国家を求める声が広がっています。ナショナリズムの闇が日本の社会を浸していきます。
しかし広く見渡せば、そしてまた歴史を深く探れば、そんな“国家にもかかわらず”生きてきた人びとにたくさん出会うことができます。日本の社会とて一筋縄ではいかない多様性に満ちています。今回のシビル市民講座は、現代のナショナリズムを批判的に検証し、国家が亡んでも人の命は亡びない生を生きてきた人びとの経験をたずね、ナショナリズム、国家を越える力を獲得する一歩にしたいと思います。
☆会場 柴中会公会堂(JR中央線立川駅南口徒歩3分/モノレール立川南駅徒歩1分)
☆定員 30名
(定員一杯になりしだい締め切ります)
☆受講料 1回 1000円
(会員・学生・経済困窮者 1回 800円/
全回前納者は5000円・会員4000円)
☆お問い合わせ/申し込み
シビル1階事務室(平日13:00〜19:00)
電話:042-524-9014
メール:civiltachikawa@yahoo.co.jp
●オススメ 郵便振替口座で前納申し込み
00170-0-481827 シビル運営委員会
振替用紙に、どの回を申し込むか、氏名・住所・電話・アドレスなどを明記してください。(用紙は郵便局にあり)
【講師略歴と講座概要】
第1回 2013年12月7日(土)14:00〜17:00 柴中会公会堂
現代の日本ナショナリズムはどこに基盤をおいているか
講師:太田 昌国(おおた・まさくに)さん
21世紀が明けてまもなく、従来なら「極右」と呼ばれて、中枢部からは排除された政治家たちが、政権党の指導部に上り詰めた。失政が続き、まもなく政権交代が起こったが、その党もまた公約違反と拙劣きわまりない政治を行って失墜し、旧政権党の「極右」政治家がふたたび首相の座に就いた。同時に、社会の深部でも、重大な変化が起こった。従来の職業的な右翼とは出自も表現・活動のスタイルも異にする「草の根保守」の出現である。歴史教科書問題を契機に生まれたこの「市民運動」は、いま、さまざまな形で社会の全面に露出している。「国家」と「民族」にことさらに価値を置く、この政治潮流と「草の根」の動きはどこからくるのか?彼らが呼号するナショナリズムは、この社会をどこへ導くのか?それを、同時代史を振り返りながら、考えたい。
太田氏は、人文書の企画・編集の仕事に携わる傍ら、民族問題・南北問題の研究に従事。主な著書に『日本ナショナリズム解体新書』『「拉致」異論』『チェ・ゲバラ プレイバック』『テレビに映らない世界を知る方法』がある。
第2回 2013年12月14日(土)14:00〜17:00 柴中会公会堂
私にとって国とは① 「“在日”である私にとって国とは」
講師:崔 善愛(チェ・ソンエ)さん
1975年、NHKを相手に名前を日本語読みではなく民族読みを求めた1円訴訟など、生涯在日同胞の生存権確立を求め激しく闘われたお父様(故チェ・チャンホア牧師)をもつ。ご自身は、在日三世、21歳で指紋押捺を拒否し、アメリカに留学する際に再入国不許可。昭和天皇死去により恩赦との通知を拒否。日本で生まれ育ちながら国家に苦しめられながらも、しかし同時に、ご自身の「背負う重荷から解放される喜びを感じた」とおっしゃる。現在、ピアニストとしての演奏活動の傍ら、全国各地で「平和と人権」をテーマに講演活動を行っている。著書に、『自分の国を問いつづけて─ある指紋押捺拒否の波紋』(岩波ブックレット/2000)、『父とショパン』(影書房/2008)がある。お父様のこと、ご自身の体験を語っていただきます。
第3回 2014年1月25日(土)14:00〜17:00 柴中会公会堂
私にとって国とは② 「被災から学んだ生きる道」
講師:川島 正雄(かわしま・まさお)さん
私は1945年(昭和20年)3月10日、東京の下町上空に侵入したB29の爆撃によって、本所で被災した。当時、私は国民学校二年生。当日は、B29が飛来して間もなく空襲警報。防空壕に避難したが、「今夜は防空壕は危ない」との警防団の触れから、そこを出ようとすると、B29から投下された爆弾が目の前を通過し、しばらく先で爆発した。まもなくB29から焼夷弾の投下。その落ちる中を逃げ、とある建物でおよそ2時間を凌ぎ、家族全員が奇跡的に助かった。戦後教職につき、「自由の精神を持って主体的に生きる」生徒を育ててきた。現在は退職し、自由の境地で現代社会を考えることが多い。グローバル化が叫ばれ、成果のみが問われる現状、政治のあり方に当時の姿を垣間見ることができる。自由、協同、情報の的確なあり方が大事であると思う。
私にとって国とは③ 「私は日本人? 中国人? という問いは永遠のゼロ」
講師:北島 凌翔(きたじま・りょうしょう)さん
1945年敗戦時、中国には日本人155万人余が残留したままだった。混乱の中でうち18万人近くが死亡。58年、集団帰国事業が打ち切られたあと、なお残留者は1万人くらいといわれた。北島凌翔さんの母方の祖母はその中の残留婦人で、家族より早く永住帰国していた。94年、母はその母と一緒に住みたいと、14歳の北島さんを連れて日本に渡ってきた。北島さんは、日本語に苦労しながら、中学、高校、更に短大を卒業した。「日本の学校は集団についていけない者を排除する」と知ったという。のち中国内に貿易会社を設立する事業者の一人となった。日本国は、一世は日本人だがあとは外国人扱いで、北島さんは「私はなに人でもない。縛りがない人間で、北朝鮮へも自由に行ける。人びとは国も民族も越えて、共に生きることが最善ではないか」という。
第4回 2014年2月8日(土)14:00〜17:00 柴中会公会堂
「ナショナリズムとジェンダー」を読み解く対話的試み
講師:上野 千鶴子(うえの・ちづこ)さん
富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了。シカゴ大学、京都精華大学を経て、1993年から東京大学で教鞭をとる。ジェンダー研究者の草分けとなる。現在は、2011年に設立されたNPO法人ウイメンズアクションネットワーク(WAN)理事長を務め、女性解放運動と著書に活動を集中している。
講座でとりあげる『ナショナリズムとジェンダー新版』(岩波書店/1998)は、90年代に当事者の告発からはじまった「慰安婦」問題がつきつける課題をフェミニストとして正面から論じ話題となった。対話的な試みの今回、講師の上野氏から、この本及び『生き延びるための思想新版』(岩波文庫版/Ⅲ章)を読んで参加してほしいという要望が出ている。
第5回 2014年2月22日(土)14:00〜17:00 柴中会公会堂
日本軍「慰安婦」問題解決運動の現場から
講師:梁 澄子(ヤン・チンジャ)さん
1990年代から日本軍「慰安婦」問題に関わる。1993年提訴の在日朝鮮人「慰安婦」被害者の宋神道さんの裁判支援を行い、2007年ドキュメンタリー映画『オレの心は負けていない』を制作。現在、「日本軍『慰安婦』問題解決全国行動」共同代表、韓国ソウル「戦争と女性の人権博物館(WHR)日本建設委員会」代表。梁さんは、運動に一貫して関わりながら、ナショナリズムについて、さまざまな角度から考えざるを得なかった。「在日朝鮮人である私にとって、それは重い問題だった」と語る。
『海を渡った朝鮮人海女』(1988/新宿書房・共著)、『朝鮮人女性が見た慰安婦問題』(1992/三一書房)、近著に『「慰安婦」バッシングを越えて』(2013/大月書店)などがある。会場ではソウル人権博物館グッズその他も販売する。
第6回 2014年3月8日(土)14:00〜17:00 柴中会公会堂
ナショナリズムの“ヒア アンド ゼア”
講師:太田 昌国(おおた・まさくに)さん
ソ連の崩壊によって東西冷戦構造が消滅して、はや20数年─だが、東アジア地域からは、その構造が消えていない。「国家」と「民族」に拠って、「国益」のための発言を続ける為政者たち。それを支える一般社会の「民意」なるもの。権力監視と自己批判の機能を失って久しいメディアは、無限定なナショナリズムの発揚を抑制するどころか、むしろそれを煽るような役割を果たしている。それは、どこの国でも同じことだ。ヒア(日本)のナショナリズムを批判し、ゼア(中国・韓国・北朝鮮)のそれには暗黙の了解を与えてきた戦後進歩派・左翼思想は、いまどこにいるのか?
そこには、どんな問題点が孕まれていたのか? 「歴史教科書」「慰安婦」「拉致」「領土・領海」問題の浮上をきっかけに反隣国感情が溢れかえるただなかで、あえて、この問題を考える。