「韓国併合100年」 ── 歴史・現在・未来を考える ──
1910年の韓国併合から100年。最近の「高校教育無償化問題」にあからさまに示されたように、植民地支配の残滓は、深く日本社会に根づいています。当事者の告発からはじまった「従軍慰安婦問題」の責任と補償の課題は果たされないまま、当事者は次々と亡くなっています。更に「拉致問題」をきっかけに、日本社会は排外主義に身をゆだね、歴史の真実を知ることも、朝鮮半島を含むアジアの平和を展望することも拒んでいるように見えます。私たちは、軍事によらない平和を求め、主体的に発言し行動するためにも、歴史をとらえ返し、状況への問題提起と実際の運動に目を開き、討論を深める必要があります。この講座は、そのような課題の一端を担うために、一年をかけて開催します。
講師略歴:徐 京植(ソ・キョンシク)さん
1951年京都に生まれた在日朝鮮人2世。早稲田大学文学部(フランス文学専攻)卒業。作家、東京経済大学現代法学部教員。大学では「人権とマイノリティ」などの授業を担当している。主な著書に『プリーモ・レーヴィへの旅』(朝日新聞社/1999)、『半難民の位置から─戦後責任論と在日朝鮮人』(影書房/2003)、『秤にかけてはならない─日朝問題を考える座標軸』(影書房/2003)、『ディアスポラ紀行─追放された者のまなざし』(岩波書店/2005)、『夜の時代に語るべきこと─ソウル発「深夜通信」』(毎日新聞社/2007)、『植民地主義の暴力─「ことばの檻」から』(高文研/2010)など、共著書に『断絶の世紀証言の時代─戦争の記憶をめぐる対話』(岩波書店/2000)などがある。(注:アンダーラインを引いてあるものは、今回講座のテーマにとくに関係が深い。)
講師略歴:石坂 浩一(いしざか・こういち)さん
1958年生まれ。韓国社会論、日韓・日朝関係史専攻。立教大学異文化コミュニケーション学部教員。「東北アジアに非核・平和の確立を!
日朝国交正常化連絡会」共同代表兼事務局長。著書に、『トーキング コリアンシネマ』(凱風社)、『韓国と出会う本─暮らし、社会、歴史を知るブックガイド』(岩波ブックレット)、編著に『東アジア
交錯するナショナリズム』(社会評論社/2005)などがある。
第1節 「在日の視点から歴史をとらえかえす」
講師:徐 京植さん(東京経済大学)
第1回 6月12日(土) 午後2時〜5時
「植民地支配を振り返る─在日朝鮮人の視点から」
1910年の「韓国併合」から100年、朝鮮解放(日本敗戦)から65年を経た現在、植民地支配がどのような傷と負の遺産を残したのかを振り返る。この回ではとくに、「在日朝鮮人」の視点から、「国民主義」を批判的に検討することになる。「国民主義」とは、先進国(旧植民地宗主国)国民の自己中心主義に対する暫定的な呼称である。国民主義者は国粋主義や国家主義とは異なるが、自らが「国民」として享受している「特権」に無自覚であると同時に、「外国人」の無権利状態に対しては無関心または冷淡である。
第2回 6月26日(土) 午後2時〜5時
「植民地主義は終わったのか? 『和解』の暴力について」
リベラルで民主主義的であると思われ、当人もそう自認している日本国民マジョリティ(多数派)の中に、無自覚な自己中心主義が潜んではいないだろうか? 朝鮮植民地支配はしばしば、良識的な人たちの間ですら、「過去の負債」としてのみ語られるが、実は現在も植民地主義は継続しているのではないだろうか? こうした問題を、朴裕河(パク・ユハ)の『和解のために』(平凡社)に対する批判を手がかりに考察してみる。これは、ニセの「和解」を拒否し、ほんとうの和解を実現するために必要な考察である。
第2節 「日本人の視点から現在を考える」
講師:石坂 浩一さん(立教大学)
第1回 9月18日(土) 午後6時〜9時
「韓国民主化運動と日本社会の変化」
1965年に日韓の国交正常化がなされましたが、その後も大部分の日本人は韓国に関心がなく、韓国人を知ろうともしませんでした。しかし、1973年8月、元大統領候補の金大中さんが白昼東京のホテルから拉致された事件をきっかけに、日本社会は大きな衝撃を受けます。「日韓連帯運動」は、民主化に向けて闘う韓国人のあり方への尊敬から始まり、韓国の独裁政権を支える日本政府の対韓政策をただす必要の自覚へと進みました。そして、ひいては戦前からの日本の政治における連続性をいかにして克服するかを、みずから問い直す契機となっていきました。韓国民主化運動の意味を再認識し、日本で行われた金大中死刑阻止や連帯の運動は、歴史的にどのような意味を持つか、考えていきたいと思います。
第2回 10月2日(土) 午後6時〜9時
「21世紀の日本と朝鮮半島」
1980年代以降、日本社会はアジアに対する侵略や植民地支配を反省する方向へと少しずつ進んできましたが、それに反発する勢力は、1995年の戦後50年国会決議や日本軍「慰安婦」問題で反撃を開始しました。おりしも、1989年の現存社会主義の崩壊にともない、東西冷戦は終結の方向にむかい、韓国の民主化も進展して、朝鮮半島情勢はいったんは平和と和解の方向へと進むかに見えましたが、根本的な平和定着の道筋へと入ることのできないまま、今日まで二度の核危機を経て、不安定な情勢が続いています。日朝の国交さえ正常化されていません。日朝関係正常化は、日本社会にとってどのような意味を持つのか、あらためて考えてみたいと思います。
第3節 「当事者の視点から現在と未来を語る」
第1回 10月30日(土) 午後2時〜5時
「“韓流”が伝える東アジア平和文化共同体」 講師:李 泳采(イ・ヨンチェ)さん(恵泉女学園大学)
年間350万人以上が往来している日韓関係。“韓流”はすでに流行をのりこえて、日本社会のさまざまなところに浸透しているもう一つの文化になっています。『冬のソナタ』『チャングムの誓い』や『東方神起』など、韓国の文化が身近に存在しているにもかかわらず、韓国併合100年になる今の時代に、私たちは朝鮮半島と日本の関係について、どれほど知っているのでしょうか?
今回は、“韓流”で大人気のドラマや映画をとりあげ、映像をみながら、現代韓国社会が東アジアの市民社会に発信しているメッセージを考えてみます。“韓流”は東アジアの平和文化共同体の土壌になれるのか?ただの流行に過ぎないものなのか?参加者の意見を交えながら、より深く現代韓国と日本の関係を見ていきます。
第2回 11月20日(土) 午後2時〜5時
「朝鮮人BC級戦犯の問題から考える戦後史」 講師:内海 愛子さん
内海愛子さんは、BC級戦犯の問題を追求し、アジア地域の人びとと深い交流のある方です。そこから見える戦後史とは?